日程に恵まれなかった。第1節はいきなりの「試合なし」。そのあとの第2節からは中3日の3連戦となり、実戦で見つかる課題を修正できないまま次の試合に臨まねばならなかった。さらに3試合目はホーム戦となったものの、相手のアスルクラロ沼津は連戦中日が降雪のため中止。疲労の面ではギラヴァンツに不利に働いた。
J3そのものがJ1やJ2よりも2週間遅れて開幕するというスケジュール。これによって、追い込みの段階で「日曜日」に力量のあるチームと練習試合を組めなくなった。J1やJ2が開幕して以降は大学生相手の試合がほとんど。Jリーグチームとしては唯一、3月5日の月曜日にJ2レノファ山口FCと練習試合を行い、主力級の選手で戦った。ただ、この試合は強風が吹き荒れる中で行われたほか、翌週には村松大輔が加入してメンバー構成に手を加えたため、シミュレーションとしてはあまり役立つものとはならなかった。
この不利の中で迎えたギラヴァンツにとっての開幕戦。J3第2節FC琉球戦は村松大輔がアンカーとして入り、加藤弘堅が右サイドバック、川上竜がインサイドハーフでプレーするという思い切ったシステムを組んだ。ところがこの布陣が機能したとは言えず、左右の深くにボールを放られて序盤からピンチが連続。前半19分には、蹴り込まれたロングフィードに対して、後ろ向きのディフェンスで後手の対応となり、あっさりと失点を許してしまう。それでも同39分、スピードのある安藤由翔が左サイドを突破し、クロスをニアサイドで前田央樹がヘディングシュート。古巣相手に放った一撃がネットを揺らして、1-1で前半を折り返す。しかし、後半29分には途中出場した琉球・播戸竜二が右からのクロスに飛び込んで再び1点差。ギラヴァンツの反撃はゴールが遠く、今季を黒星でスタートした。
修正期間の短い中、アウェー藤枝MYFC戦では浦田樹が先発。その浦田やスピードのある両サイドアタッカーが縦へのスプリントを生かし、前節よりはスムースに中央から外へと展開できるようになる。試合は前半4分、茂平のクロスに安藤由翔が合わせてギラヴァンツが先制。各選手の色がいきなり発揮された。しかし、早い時間での先制点でギラヴァンツの選手たちに、攻めるのか、リトリートするのかの判断にズレが見られるようになり、イージーミスが連続。締まった展開とはならず、同27分に追いつかれてしまう。
ハーフタイムで森下仁之監督の指導で弱含んでいた部分を修正。後半に入るとギラヴァンツが自分たちのペースを取り戻して、優位に進めるようになる。同36分、直接FKを浦田が右隅に鮮やかにしずめて勝ち越しに成功。この1点を守り抜いて、ギラヴァンツは敵地で初勝利を手にした。
この勢いに乗っていきたかったが…。アスルクラロ沼津を迎えた3月のラストマッチは、システムやメンバーを変更。平井将生、福森健太、内藤洋平が先発し、同サイドの攻めだけではなく中央からの攻撃も早い時間から見せていく。それでもゴールを近づけられなかった。
前半7分にFKを沼津・畑潤基に合わせられて早い時間に失点。後半15分にも、畑に2点目を奪われて0-2とされると、堅守の沼津ゴールを最後までこじ開けることはできず、無得点での敗戦を喫した。ボールを持っている時間帯に決定的なチャンスを作ったものの、試合を通してみれば数は少なくシュートは8本にとどまった。
3試合を終えたが、まだチームとしての骨格は完成していない。致し方のないことで、現時点でどうこう言う必要はなかろう。それでも完成形をもっと示さなければ、骨格そのものを構築することはできない。開幕直前に加入した村松大輔を重心にして戦っていくのか、あるいはインサイドハーフやボランチの位置でプレーするキャプテン・川上竜に起点を求めるのか。それとも個々の選手に偏らずにチームとして戦っていくのか。試合を重ねながらも着実に着地点を見つけ出さなければ、苦しい戦いはまだ続いていくことになる。守備面でも後ろ向きになっている場面が目立ち、実際に失点やファールの一因になっている。方向性に乏しいクリアもあり、もっと組織的な守り方を考えて実践すべきだ。
開幕戦のあと、琉球の金鍾成監督に報道陣から「北九州の印象を聞かせてほしい」という質問が投げかけられた。これに対して金監督は実に10秒と長く考えた末に、「チームとしての形まではまだ作られていないのかなという感じがした。構築する過程かなと思う。そういう中でゴールに向かうパワーは感じて、後半は押し込まれた」と話した。重い言葉だ。アウェーの監督の言葉と受け流すのではなく、真摯に受け止めて、チーム作りをいっそう厳しい気持ちで進めたい。
見えてきた課題はチームの中にとどまらない。沼津戦では入場者数が3417人で、ミクスタに本拠を移して以降の試合では最も少ない人数となった。3月25日はJ2でも2会場で2千人台を記録しており、J3というカテゴリーを考えれば決して恥ずべきほどの少なさではないが、クラブ目標には及ばず、改めて集客面でも課題を残した。
なぜ集客しなければならないのかという根本をもっと自問自答してもいいだろう。観戦者が増えることで街が元気になるとか、シビックプライドの醸成につながるとか、そういう崇高な理念でもいい。有料入場者数の増加で経営の安定度が増し、有力選手を獲得できるようになるという現実的な目標でもいい。それら柱になる部分をクラブがどれだけ本気で策定し、共有し、努力できているか。
付言すればチーム成績と入場者数は一定の相関関係がある。例えばJ2で成績の落ち込んでいるチームは入場者数でも伸び悩み、例えば上述した2千人台の2試合はいずれも降格圏内の愛媛FCとカマタマーレ讃岐のホームゲームだった。ホームの応援は自分たちのチームを強くするだけでなく、相手を萎縮させる効果があり、ホームアドバンテージを生み出す。
開幕してから1週間あまり。この短い期間で知人や乗ったタクシーのドライバーなど3人から「スタジアムに行ってみたい」という話を聞いた。むろん『あいさつ』代わりに言っただけかもしれないが、少なくとも彼らはチームがあること、小倉駅北側にスタジアムがあること、それにJ3リーグを戦っていることも知っていた。認知はされてきている。それをどう行動に結びつけるか。スタジアムの楽しさを口コミレベルから伝えていく作業も必要だろうし、チケットの買い方から観戦のポイントまで細かに発信する必要もある。
本稿に哲学を書くつもりは全くないが、行動に出る前に人間は言い訳を探すもの。「楽しみ方が分からない」「買い方が分からない」「行き方が分からない」、「だからやめました」という流れを作らないよう、スタジアムが非日常的空間であることを、楽しく分かりやすく伝えねばなるまい。
4月からは日程面での有利や不利はなくなる。チームも、クラブも、真価を見せるべきときがやってくる。