J2レノファ山口FCは3月11日、ホームの維新みらいふスタジアム(山口市)でロアッソ熊本と対戦し、ミスなどから3ゴールを浴びて今季初黒星を喫した。
レノファは前貴之が今季初先発して主に右サイドバックでプレー。中盤は布陣を一部変更し、佐藤謙介と矢島慎也をボランチに並べた。昨シーズンを3位で戦い終えた熊本に対して、プレスを厳しく掛け、ボールポゼッションでも主導権を握る狙いがあった。
試合はテンションの高い入りとなり、ピッチ中央での厳しい攻防がしばらく続く。ただ、ゲームが落ち着いてきた前半20分過ぎからは熊本がボールを持つようになり、レノファのプレッシャーがうまくはまらなくなってしまう。
同35分には熊本が先制点。竹本雄飛の最終ライン背後への縦パスを石川大地が回収して、ゴール左に流し込んだ。レノファとしては簡単に背後を取られた痛恨の失点となった。
後半に入っても流れは変わらず、後半11分に再び失点。クロスボールを松本大輔がクリアしようとするがうまく蹴り出せず、ペナルティーエリア内で相手にボールを渡してしまう。GK関憲太郎も飛び出していたことでゴールが無人となり、これを松岡瑠夢が落ち着いてゴールイン。さらに同30分にもコーナーキックから江崎巧朗に試合を決定付ける3点目を許した。
3点を追うレノファは、スペースオープンな展開となったことを追い風に、敵陣にカウンターや長めのフィードで侵入する。同34分に前のクロスボールを途中出場の梅木翼がポストプレーでつなぎ、小林成豪がシュート。相手GKにセーブされるが、こぼれ球から河野孝汰が右足を振ってゴールネットを揺らし、1点をもぎ取った。
ただ反撃は1点にとどまり、レノファはホーム戦で1-3の苦杯。名塚善寛監督は試合後の会見で、「ゲームは続くので、自分たちのサッカー、前に矢印を向け、しっかり競争しながら成長したい」と話したが、ビルドアップやゲーム運びなどに課題を残す90分間となった。
自陣でのボール回しに落ち着きが足りなかったのは大きな反省点だ。相手のプレスを逆手に取って冷静にはがしていければよかったものの、前節のいわき戦に続いてパス出しに余裕がなく、精度を欠いたパスによってボールの受け手も後ろ向きで受けざるを得なくなった。
センターバックからのパスだけではなく、ボランチや前線でも同様で、パスのタイミングに関しては個人戦術も深まっていないほか、意思統一もまだできていない。ボランチを2枚に増やしたり、右サイドバックで前が先発したことでボールを受けられる選手が増えたのはポジティブな要素だが、そのメリットを発揮するには時間が掛かりそうだ。
コミュニケーション不足も浮き彫りになった。簡単に背後を取られた1失点目はラインをキープしてオフサイドを誘うか、相手とチェースして奪い取るか、守備陣の判断にばらつきが垣間見える。ミスが重なった2失点目は声が掛かっていれば、最悪の状態は防げた可能性があった。「後ろから自分たちが声を出してコミュニケーションを取らないといけない」と振り返ったのは生駒仁。昨シーズンは途中からレノファに戻った前がセンターバックに入り、ラインコントロールやコーチングで守備再建を主導したが、今年は生駒自身が自認するように、生駒や松本に積極的な関与が求められる。
河野孝汰は2021年秋にアキレス腱断裂の大ケガを負い、1年間、試合から遠ざかっていた。2022年10月に戦列復帰。そしてこのゴールが復活を印象付けるものとなった。
前節のいわき戦では相手最終ラインの背後を突き、ペナルティーエリアでボールを何度も回収。レノファの狙いの一つでもある「ニアゾーン」への動き出しで特徴を発揮し、左ポストをたたくシュートも放っていた。今節は背後のスペースが消されている中で、ポジショニングに注力。こぼれ球にも落ち着いて反応した。
「あのポジションに入り込めていたのが得点につながった。負けている状況だったので(決めた瞬間は)一喜一憂せず、次のゴールを狙うという気持ちだった」
2021年9月の金沢戦以来、約1年半ぶりのショットは、河野の存在感を示すには十分のゴールシーンとなった。それでもレノファを背負う若人に笑顔はなく、チームに勝ち点を届けるFWとしてのプライドのほうが勝った。「もう1点、もう1点」。力強いまなざしで前を向き、河野はうなずいた。
「このゴールまでにたくさんの人に支えてもらって、たくさんの壁を乗り越えてきた。サッカーを楽しむ、FWとしてゴールを決める、そういうことのスタートラインにやっと立てた」
次こそは――。苦難を乗り越えた河野は、自分で引いたスタートラインから再びゴールを目指していく。