5月は3勝2分0敗で終え、いわゆる「取りこぼし」がない無敗月間となった。ゲーム内容そのものには厳しい見方が必要だが、この1カ月で勝ち点11を積み上げ、首位・大分トリニータと同数に。ただ、霜田正浩監督は手放しでは喜ばず、内容面の充実を促した。
5月の序盤2試合は4月末から続いたゴールデンウィーク3連戦のうちの2戦目と3戦目。いずれも敵地での開催となった。
3日の第12節はヴァンフォーレ甲府との対戦。J1で戦ってきた実力があるチームとの対戦は苦戦が予想されたが、それ以上にレノファには高い壁が待ち構えていた。
レノファ戦を前に、甲府は成績不振で吉田達磨監督を解任。後任に迎えたのは、レノファを指揮してきた上野展裕監督だったのだ。準備期間が短いためにレノファにとっておなじみとも言えた「上野流」スタイルは多くは見えなかったが、寄せの早さとコンパクトさを徹底。レノファも応戦するが後半7分に先制点を許してしまう。
レノファは終盤、実質的な「2-4-4」に変更。後半43分、池上丈二が振り入れたCKに渡辺広大が合わせて同点に追いついた。試合は1-1のドロー。ただ、相手の動きが読めない状況でありながら勝ち点1を得たのは収穫と言えるだろう。このあとの甲府が大分を6-2でくだすなど快進撃を続けており、価値ある勝ち点1となった。
次なる京都サンガF.C.戦も試練となった。下位に低迷していた京都はレノファ戦を前にして布部陽功監督が休養(のちに退任)し、ボスコ・ジュロヴスキーコーチ(当時。同月中に監督昇格)が指揮を執ることになったのだ。またしても相手の監督が交代する直後での対戦。相手の出方が読めない中で、甲府から帰山せずに京都に乗り込んだ。
ゲームの主導権を握れていたわけではないが、先手を取ったのはレノファだった。前半終了間際、前貴之がゴール右隅方向へとミドルシュートを放つと、GK清水圭介がなんとかセーブするがこれによってCKのチャンスを獲得。これを池上丈二が蹴り、オナイウ阿道が頭で合わせて先制した。
さらに後半20分、前貴之の斜めのクロスに途中出場の山下敬大が反応し、ゴールイン。レノファは2-0でリードし後半は主導権を握る。田中マルクス闘莉王にクロスから右ヒールで決められるという技ありのゴールを奪われるものの、2-1で勝ちきった。
劇的な展開となったのが東京ヴェルディ戦だ。レンタル元との対戦となるために高木大輔が出場できず、このポジションには清永丈瑠が入った。ただ、相手の徹底したプレッシングを受けたレノファは自陣からボールを出せず、清永への展開が僅少。高木のように機を見てワイドを張れれば良かったものの、やはり実戦出場の少なさから思ったようなプレーができなかった。
とはいえチーム全体としてもミスが多く、相手に攻め込まれ続ける。前半12分と同32分に失点し、前半を0-2で折り返すことになる。
後半は早い時間からDFの枚数を1枚ずつ削っていき、途中からは2バックに変更。さらにはクロスの質が高い瀬川和樹を、サイドバックではなく「左ウイングバック」(霜田監督)の位置に入れ、攻撃の枚数とクオリティーを高めた。
これらの策を打ち続け、後半26分からの約20分間で4連続ゴール。オナイウ阿道が2得点を決めたほか、池上丈二のクロスに合わせた岸田和人が今季初ゴールを奪取。大崎淳矢は11試合ぶりの得点となった。
リーグ1位の大分トリニータと開始前時点で2位に立っていたレノファとの上位決戦となった。勝ち点差は3で、レノファが勝てば首位に勝ち点で並ぶ可能性があった。
しかし、前半11分にCKから大分・馬場賢治に合わせられて失点し、早い時間から追いかける展開となる。試合前から注目点の一つとされた小野瀬康介、前貴之と大分に移籍した星雄次とのマッチアップは、良くも悪くも噛み合う形になり、双方ともにこのサイドでは攻めあぐねてしまう。
0-1で迎えた後半。そのオープニングともいえる時間帯に、オナイウ阿道が同点弾を挙げて、レノファが試合を振り出しに戻す。だがまたしても馬場に勝ち越し点を決められ、1-2のスコアに。状況を打開したいレノファは岸田和人と高橋壱晟を同時に送り出し、モメンタムを引き寄せようと試みる。これが奏功してレノファにチャンスが増え始めると、後半30分、高木大輔がミドルシュートをしずめて同点とした。その後はお互いに譲らず2-2でゲームセット。1位と2位の直接対決は勝ち点1を分け合った。
カマタマーレ讃岐を下関に迎えた試合。ピッチコンディションが大きく改善され、イレギュラーが起きるような状況ではなくなった。散水量の不足からボールが走りにくいという状況はあったにしても、十分に他のJリーグ開催会場と比べても遜色のないピッチに仕上がっていた。
ゲームは最下位の讃岐がブロックを敷いてカウンターで攻めるという従来策を継続。必然的にレノファがボールを保持する時間が長くなるが、ブロックが堅かったり、決定的なチャンスで枠を捉えきれないなどで、ゴールが近づかない。ようやくの先制点は前半45分。カウンターで高木大輔がボールを持ち出してペナルティーエリアにまで猛進。クロスの跳ね返りをオナイウ阿道が収めると、そこに走り込んでいた三幸秀稔がオナイウからパスを受けてゴールネットを揺らした。
後半に入っても崩せない状況が続く。ボール保持時のミスからカウンターを食らう場面も増え、再三にわたって原一樹などに決定機を作られる。これには藤嶋栄介の好反応でなんとかしのぎ、試合は1-0で閉じた。3月以来のクリーンシートとなったが、結果的にはシュート20本を放って1得点と、勝利こそすれど物足りない試合になった。
無敗で終えた5月は、チャレンジングな1カ月間だった。上位との戦い、監督交代が起きた直後のチームとの戦いなどが続き、必然的に志向するサッカーを磨いて、質を高めて戦うしかなかった。道半ばであることに変わりはないが、結果を引き寄せられたという点では、十分に手応えのある5試合だったと評価できよう。
選手起用でみれば、甲府戦から左サイドバックに鳥養祐矢を充てた。元来はサイドハーフを担ってきた選手ながら、霜田正浩監督は「見て分かるようにファイターだ」と評価し、このポジションで先発。経験から来る守備力では瀬川和樹や廣木雄磨が上に来るものの、30歳になった鳥養の成長はめざましく、新しいポジションでも新たな良さを発掘、発揮しようとしている。
インサイドハーフでのプレーする池上丈二も戦術にフィット。ポジショニングとパスセンスが生き、セットプレーのキッカーとして得点源となったり、クロスから岸田和人のゴールを呼び込んだりと、活躍している。シュートを果敢に狙う大崎淳矢や山下敬大とは特色の異なるプレーヤーだが、高い位置でボールを配れる選手の存在は頼もしい。
レノファは5月も好調を維持してきた。しかし、相手からの対策はいっそう厳しくなってきている。右サイドはほとんど自由がなくなり、小野瀬康介だけでなく、前貴之への寄せも早い。この状況を受けて、小野瀬はシュートを狙いながらも、相手を引きつけてクロスを選択するケースが増加。前は小野瀬にパスを付けるだけでなく、相手の右サイドの食いつきが早ければ、自ら内側へと絞って中盤全体を左方向へとスライドさせている。
物理的に人が動くことで多少なりとも右サイドの人数が減り、小野瀬の動けるスペースはわずかながら回復しつつあるが、いずれにしても右サイドはシュートのためと言うよりは、クロスのための攻撃にシフト。元来のアシストの質は高いだけに、オナイウや山下のシュートシーンを生む原動力になっている。
得点以上に失点も増えてきていたレノファ。5月最終戦の讃岐戦ではクリーンシートに抑えるも、内容を詳述するまでもなく、イージーなパスミスからボールを失ってカウンターを受け、決定機を作られ続けた。藤嶋栄介の好反応で難は逃れ、GKの才と土肥洋一コーチの指導はたたえられるべきところだが、自陣でつないでいるときのミスは確実に減らさなければならない。
6月以降はナイトゲームのシーズンとなる。暑さに加え、天皇杯も入り、コンディションも重要な時期になっていく。対策の上を行けそうな攻撃面は衰えないだろうが、無駄な失点を減らすべくチーム全体で集中して戦っていきたい。